うつろうかたち

 わけが分からん抽象画を描く野見山暁治さんは、画家にしておくのがもったいないような、平易で魅惑的な文章を書かれる。大好きな田中小実昌さんは義弟にあたるらしいからなんとなく親近感もある。

 折々に書いたこのエッセイ集には、糖尿をわずらったコミさんは、アメリカで行き倒れになったものとばかり思い込んでいたが、実はそうではないと言う新証言や、画家の目から見た画家達が次々に登場するから興味深い。

 小磯良平 坂本善三 坂本繁二郎 佐伯祐三 藤田吉香 
 金山康喜 船越保武 稗田一穂 岸田劉生 藤田嗣治

 「形は色の自在さを束縛しようとするし、色を解きはなつと、とたんに形は壊れてしまう。ドガはこの矛盾を克服しようと試みるあまり、とうとう誰とも付き合わなくなり、どうしょうもなく気難しい人間として、世間からはずれてしまう」
美しいものを創り出す人間の孤独は、誰も盗み見することができない。著者は画家として己の心情をダブらせる。

 新宿副都心や衣服の皺など、やたらにごちゃごちゃと線で描いた絵を見たことがあるが、それについて
「事象の一切合切、そのひしめきあいをデッサンするとき、たいてい線でもって区分する。区分けという言い方は少し曖昧だが、ともかくモノの形を線で囲って要約しようとする。デッサンといわずタブローでも、ぼくはやたら線を引く」

 自身の絵については
「ぼくの中には、何かがはっきりあって、これを描こうと思うんだけれども、それはこういうものじゃなかろうか、ああいうものじゃなかろうかと思いながら追いかけていっている。絵を描くというのは、そういうことだろうと思う。じゃあ、これは完成かと言われたら、完成ということはないので、手探りの状態で、いま、この絵についてはこれ以上手探りができないんですというところをもって、終わりにしている」と。

 最終章には渡欧した夢多き貧乏画家時代のロマンスや心の風景がノスタルジックに語られている。


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