PTSD狙撃兵 『アメリカン・スナイパー』 シネマノカンソウ
ジャン=ジャック・アノー監督の「スターリングラード」やニキータ・ミハルコフ監督の「遥かなる勝利へ」などでも狙撃手が克明に描かれているが、狙撃手同士の対決が一つのテーマような映画はおそらく初めてではないか。
荒廃した中東イラクで戦う緊迫した市街戦が、リアルな音響と視点で描かれると共に、戦争に翻弄される家族や帰還兵の苦しみを赤裸々にした秀作。
カウボーイから海軍に志願したのは「まともな生き方がしたい」ためと貧困。しごきと戦地の体験を通じて才能を開花させ、イラクに4回派遣されて160人以上殺した"凄腕スナイパー"は「国の為」「亡くなった同僚の敵討ち」「奴らが悪い」と自己弁護するが、復員後は次第に精神を蝕まれてゆく。
現時点で米帰還兵の1/4はPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しみ、毎日22人が自殺していると聞く。(未遂は年間18000件)
911ツインタワー後、アフガン戦線の後方支援に派遣されたドイツ帰還兵の55人がPTSDで自殺している。
戦争物は娯楽としては面白い。しかし、この映画の底に流れているのは、カッコ良さではなく、戦争をさせられる兵士の苦しみと家族の悲劇だ。
『アメリカン・スナイパー』(2014年米)
監督: クリント・イーストウッド
出演:ブラッドリー・クーパー シエナ・ミラー ルーク・グライムス ジェイク・マクドーマン カイル・ガルナー
☆☆☆☆ 80点
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