身勝手な業 『小説家』

学校と縁を切り親から逃れ、17歳で炭鉱に潜り込み、労組の機関紙つ゛くりで文筆に目覚め、廃坑の後は行き場がないまま肺結核で療養生活をよぎなくされた彼は、文学で身を立てるため、妻子を捨てて女と駆落ちする。
すべて、行き当たりばったりの流儀に身を委ねた結果だった。

座椅子にひっくり返って読んでいたが、後半は鳥肌が立つような緊張感で、そばに座布団があるのも忘れて畳に正座して読んでしまった。身を正したのではなく体がやけに硬直したからだ。誰しも深く考える事を放棄して、行き当たりばったりな行動に走るもので、それを若気のいたり等と片付けるがそのときは後先の事まで深くは考えない。人生なんて案外そんなものだ。人様には結構なことを言っていながら、手前のこととなれば決断が付かないまま流れに委ねてしまう。

だが、ここに描かれている彼の行動は世間の常識を逸した非情な判断だけに、節目で安易な道を選んで来た我が足跡を振り返ると、目的を持った人の身勝手な決断力は並のものではないと驚愕せずにはおれないし、我が身の弱さをも感じてしまう。
身勝手は作家だけの特権ではないが度重なるとすさまじい。

トラックの運転手をしながらも、毎朝五時には起きて2・3時間は必ず書くという持続性は、世間的には落第生かもしれないが、創作者の資質は溢れるばかり。中上健次や森敦に関わるエピソードは特に興味深い。

自分の心の内を語ることに興味を示さなかったハードバイオレンス作家がついに書いた私小説。作家の生き様、又は仕事振りに興味を持つ人には大変面白い小説だと思う。

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